3DRのSite Scanサービス、DJI機にも対応

3D Robotcis(3DR)は元々、当時Wiredの編集長だったChris Andersonが始めた、ドローン自作を趣味とする人達のコミュニティ、DIYDrones.comから生まれた会社です。Chris Andersonが自分の子供と一緒にプログラム可能なレゴを使って、自作のドローンを組み立てたことがきっかけとなり、趣味が講じてDIYDrones.comを立ち上げたところ、たまたまコミュニティにいたJordi Muñozという19歳のメキシコ人学生がWiiリモコンの加速度センサーを使ってフライトコントローラーを作ってしまいます。

ちなみに、このWiiリモコンは当時としては珍しかった、Bluetooth接続で手軽に加速度センサーで遊べるガジェットだったので、私もバーチャルライトセーバープログラムを書いて遊んだ記憶があります。

その後、ChrisとJordiが3DRを立ち上げ、16MHz、8ビットのArduinoをベースにした初代ArduPilot(ハード)や、より性能の上がったAPM(ArduPilot Mega)やAPM2といったDIY向けのフライトコントローラーに発展してゆきます。初代APM系のボードは、Autonomous Vehicle Competitionという自立制御乗り物のコンテストを開催していた電子部品販売大手のSparkfunが製造を担当していました。当然、Arduinoボード用に書かれたファームウェアであるArduPilot(ソフト)は、Arduinoのスケッチとして実装されていました。

その一方で、PX4/Pixhawkプロジェクトは、ドローン制御の最先端をゆく、スイス工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)で、オープンソースハードウエア&オープンソースソフトウェアの32bitフライトコントローラーを作る目的で始まりました。

そのPixhawkの製造パートナーに3DRが選ばれ、ArduPilotプロジェクトPX4プロジェクトが共同で、どちらのソフトウェアにも対応したハードウェアとして、Pixhawkが誕生しました。3D Roboticsは、初期段階からPixhawkの生産、販売と、ArduPilot系開発者への金銭的支援を熱心に行っていたため、3DR独自の製品だと勘違いされることが多いですが、PX4/Pixhawkの出処はETH Zurichで、ArduPilotの出処はDIYDrones.comです。

ちなみに、PX4もArduPilotも、元来ハードとソフトがセットになったプロジェクトだったのが、いつの間にかハードとソフトが独立して進化してしまったため、PX4、ArduPilot共にハードウェアとソフトウェア両方が存在し、名前だけではどちらの話なのか不明で、非常にややこしいです。Zenbotでは、PX4(ソフト)、PX4(ハード)、ArduPilot(ソフト)、ArduPilot(ハード)というふうに識別しています。

PX4/Pixhawk/ArduPilotプロジェクトが特徴的なのは、ソフトウェアだけでなく、ハードウェアも多くがオープンソースであることです。比較的安価なのに高性能で、技術力さえあれば自由に拡張できるため、今ではPixhawk系のフライトコントローラーを載せたドローンは、全世界で100万機も飛んでいると言われています。勿論、Zenbotも始めからPixhawk系のコントローラーのみを採用しています。

ハードウェアもオープンソースであるため、当初はマイクロコントローラーベースだったハードウェアも、いまやLinuxシングルボードコンピューターを含む様々な製品が出てきており、PX4(ソフト)も、ArduPilot(ソフト)も、非常に多くのプラットフォームに対応しています。

このように、DIY向け、玄人向けの製品を製造、販売することで有名になった3DRですが、同じようにDIY向けの製品を作っていたDJIが、空撮専用のドローンをコンシューマー向けに販売することで成功したのをみて、我らも遅れまじと、それまでの忠実な顧客ベースだったDIYユーザーをあっさりと切り捨て、コンシューマー市場に参入しようとして見事に撃沈したのはご周知の通りかと思います。

ドローンバブルに乗って、最初から100億円レベルの資金を集めてしまうと、期待値もあがってしまい、市場が熟成していないうちに過度な売上目標を設定してしまうことになり、結局は既存顧客や自社の強みを無視した無理な先行投資と製品開発に突き進んで失敗し、大幅な軌道修正からの事業縮小、大量解雇、という典型的な敗戦処理パターンに陥った3DRですが、その後は、DJIファントムの対抗馬としてコンシューマー向け空撮ドローン市場に鳴り物入りで参入した自社製品、Soloの単体販売を早々に諦め、Site Scanという測量用の業務ソリューションとの抱き合わせ販売に特化するべく大きく舵をきりましたが、売上は今ひとつのようです。

過大な増資は経営リスクでしか無いので、資金集めは必要最小限に留める、というのはベンチャー経営者の鉄則だと思いますが、膨大なお金に目が眩んでしまったのかもしれません。まるでドットコムバブルの再来のようなドローン業界ですが、それでも3DRは4月のシリーズDラウンドで$53Mの追加増資を行っていますので、まだまだ業界としての期待値は高いということでしょうか。

で、ようやく本題ですが、そんな3DRも、ついにSite ScanサービスでDJI機の対応を発表しました。

https://3dr.com/blog/3dr-dji-enterprise-atlas/

ハードに関しては完全に白旗、というのは明白でしたし、3Dソフトウェア最大手のAutoDeskと測量関連で提携しているので、今3DRに潰れてもらっては困る、というのはわかりますが、DJI機でできることをやっても差別化要因がなく、先行するPix4D等に対抗できるとも思えず、余計に自分の首を締めることになるだけのような気がするのは、私だけでしょうか。。。

 

余談ですが、Chris Andersonと共に3DRを立ち上げたメキシコ人学生のJordi Muñozは、既に3DRを離れ、mRoboticsという会社を立ち上げています。mRoboticsは、3DRの製造設備を引き継ぎ、原点に立ち返ってDIYユーザー向けに高品質なPixhawkや後継機を製造・販売しています。この点、HobbyKing製の安物クローンに自社ロゴを貼り付けて販売している3DRとは対象的で、ユーザー視点で改良を続け、商品ラインナップや入手性などにも気を配って活動しているのは非常に好感が持てます。

Intel、IoT事業再編か

Intelが、IoT関連製品の内、Galileo、Edison、Jouleの製造を中止するようです。

GalileoはIntel版のArduinoで、スマホの波に完全に乗り遅れたIntelが、IoTのビッグウェーブには乗り遅れまじと鳴り物入りで参入したのが2013年。その翌年にはウェアラブルの決定打としてEdisonモジュールを投入し、Jouleに至っては、2016年8月に発表したばかりです。

有名な科学者にちなんで名付けられたこれらの製品は、CEOのBrian Krzanich自ら、キーノートスピーチで大々的に発表する気合の入れようでしたが、食後のオレンジシャーベットのようにあっさり撤退してしまいました。

特にJouleは、Atomプロセッサー、4GBメモリー16GBフラッシュ、4Kビデオ対応、WiFi内蔵、顔トラッキング、自然言語プロセッシング等も可能なハイエンド組み込みソリューションとして、てんこ盛りな内容でしたが、x86系では、ドローン向けVisonセンサーのRealSense用の開発ボードとしても使われているフル機能SBC(シングルボードコンピューター)のUP Boardが人気で、小さくパワフルな上、2020年まで入手性が保証されているなど安心して採用しやすく、Jouleとの住み分けが難しかったのかもしれません。

Arduinoに関しては、今回製造中止の憂き目を逃れたCurie (キューリー夫人)を搭載したGenuino101(米国での商品名はArduino101)が残るので、Galileoがなくても特に問題はないです。

しかし、さすがに1年足らずで撤退されてしまうと、プロダクトライフサイクルが長い組み込み系では、リスクが高すぎて採用したくない、と言う人が増えるのではないでしょうか。

ただでさえ組み込み系はARMの独占状態で、Intel念願のx86チップ普及がかかっていた製品群だけに、あまりに諦めが早く、簡単にユーザーを見捨てる会社とのイメージができてしまうのは仕方ないですし、今後組み込み系のデザインにIntel製品を採用する際には、躊躇してしまうどころか、使用禁止令が出る会社も少なくないと思います。ただ、IntelはJouleの発表と同時に、ARMからライセンスを受けてARM系チップの製造を始める、と、ほとんど白旗を上げるに近い内容の発表もしており、もともと敗戦処理が確定路線だったのかもしれません。

ドローン関連では、複数のRTKソリューションや、Pixhawk系のフライトコントローラーが、Edisonを前提にしたデザインになっているのですが、基盤設計やり直しになるだけではなく、モジュールサイズやソフトウェア環境を考えると、乗り換え先は簡単にはみつからない状態だと思います。関係者の皆様におかれましては、誠に御愁傷様でございます。

インテル以外のマイクロコントローラーベースの開発ボードや、メーカーズ向けSBCマーケット全体では、ArduinoRasbperry Piがそれぞれ寡占状態にあり、ベアモジュールの入手性も良く、なかなか他に魅力的な選択肢がないのが現状です。

クラウドファンディングのSBCは雨後の筍のように出てきていますが、周辺機器、コミュニティ、ソフトウェア資産の問題等に加え、安定供給が望めないとなると、とても製品に採用できるものではありません。

その中で、よく頑張っているのがTexas Instrumentsのオープンソース開発ボードBeagle Boardシリーズです。Raspberry Piは基本的に安価なLinux PCであるのに対し、Beagle Boardシリーズは初めから組み込み用SBCとして設計されており、ヘッドレスでも非常に使いやすく、痒いところに手が届く設計になっています。また、常に製品をリフレッシュしながらも後方互換性が保たれ、息の長い製品としてゆっくり焦らず育ててゆこうという姿勢にも好感がもてます。ごく最近も、加速度センサーやジャイロを搭載し、そのままフライトコントローラーやロボットコントローラーとして使えるBeagleBone Blueがリリースされたばかりです。

IoT市場は爆発的な成長が見込まれており、Intel以外にも、Qualcommを始めとするチップメーカー系各社がせめぎ合っていますので、今後も目が離せません。